(1)「世界文化遺産特別委員会における調査・審議結果について」
○「一つの主題のもとに複数の構成資産を組み立てるという手法」の重視
松本城を世界遺産にしていくためには世界遺産委員会の文化遺産登録への基準、あるいは視点が「一つの主題のもとに複数の構成資産を組み立てるという手法」が主流になっており、暫定一覧表へ の文化資産の追加記載を進める上でも十分考えねばならなくなっていることを理解しなければならな い。
また、登録された世界遺産の数において地域的、時代的不均衡が生じており、これを打開するために従来のような歴史遺産だけでなく、「産業遺産」「 20世紀の建築」「自然との共存を示す文化的景観 」などの遺産が今後注目される方向であると述べていることを考慮しなければならない。
○資産が日本の歴史・文化の一端を示す連続性を重視
国内の登録推薦にあたっては、既に一覧表に掲載された資産についても構成資産の史跡等への新指定或いは追加指定を最大限行い保護範囲を拡大することが求められている。
さらに、審議会は、国指定文化財を中心にその資産が日本の歴史・文化の一端を示す連続性のあることを重視していくとしている。
○国内外の同種遺産との比較研究・万全の保護措置・保存管理計画の策定
今回一覧表に掲載されることになった 4件についても、資産構成について改善・充実を求めている。すなわち、国内外の同種遺産との比較研究を行い普遍的な価値を証明すること。個別の構成資産について重要文化財及び「史跡への指定」「追加指定」等を行って保護措置を万全にすること。包括的保存計画の策定とそ計画のもとに個別の文化財についての保存管理計画の策定を求めているこのことは我々が今後取り組むべき方向を具体的に示唆している。
○既登録の文化財との「統合」又は「再整理」が可能であるかどうかの検討
継続審議となった文化遺産については主題・構成の熟度を高めていくための課題として以下を上げている。この項目は今回一覧表に掲載されることになった 4件に対する課題とも重複する。
@ 主題の明確化と資産の範囲および網羅すべき要素の吟味をすること。
A 世界史的観点から資産の位置付けを行い普遍的価値を明確にすること。
B 包括的保存計画の策定とそ計画のもとに個別の文化財についての保存管理計画を策定し今後の方 針、方向性、手順を整理して示すこと。
C 既登録の文化財との統合又は再整理が可能であるか検討すること。
○都道府県域を越えてリンクする一連の文化資産群という構想の重視
そして、最後に特別委員会の報告書は 「今回の提案書の募集に当たっては、地方公共団体の意志及び複数の地方公共団体間の合意形成を前提として、種別を越えた一群の国指定文化財を中心に、地域に独特の歴史・文化の様相を総体として示し、以て日本の歴史・文化の重要な一端を担っていると判断できるような連続性のある文化資産を対象とした。これに応募のあった文化資産の総数は計 24件と数多に及び、こうした多様な文化資産の捉え方及び包括的な保護の在り方が、今や各地で注目されつつあることを示しいる。 さらに、提案資産の中には、都道府県の境界を越えてまとめられたもの又は、その可能性を秘めているものなども複数存在し、今後、一連の文化資産として保護すべきものの範囲が拡大しつつあることを示している。」 として、資産が都道府県域を越えてまとめられたもの又は、その可能性を秘めた提案について、今後さらに増加していく傾向とみている。このことは、世界遺産委員会がいう「一つの主題のもとに複数の構成資産を組み立てる手法」をとる 場合、地域の距離は問題にならないことを示唆しているように受け取れる。
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(2) 松本城を世界遺産に ――― 具体的な方策―――
1 推進委員会並びに研究組織・審議機関・運動推進組織の編成
2 主題・資産構成の検討の推進
ア 課題解決の研究・審議の内容
@ 主題の明確化と資産の範囲および網羅すべき要素の検討すること。
A 世界史的観点から資産の位置付けを行い普遍的価値を明確化すること。
B 包括的保存計画の策定とその計画のもとに個別の文化財について保存管理計画の策定する。
C 既登録の文化財との統合又は再整理が可能であるかの検討すること。
(姫路城・彦根城等との統合の可能性の検討)
今回、暫定一覧表追加掲載が継続審議となり特別委員会より提案に対する課題を示されたのを受けて今後に向けて従来の組織を整理し、推進委員会・研究組織・審議機関等の新たな編成が必要と思われる。
イ 個別の課題についての検討
@ 主題の明確化と資産の範囲および網羅すべき要素の検討
このことは資産名を今回のように城郭を資産構成とする「松本城」とするか、城下町まで広げて「松本城と城下町の文化的遺産群」のようにするかについて、資産構成の明確化を求められている。
○ 松本の城下町は以下のように明治期の火災によってほぼ失われている。(別図添付)
松本町の明治期の火災
発生年月日 |
被災地域 |
焼失戸数 |
明治 19 ・ 2 ・ 10 |
東町・和泉町・下馬出・出居番・上馬出・捨堀・横町・下々町・上下町
中町・天白町・正行寺小路・作左衛門小路・観音小路・裏町 |
973 戸
半焼 25 戸 |
明治 21 ・ 1 ・ 4 |
飯田町・天神小路・小池町・宮村町・本町・裏小路・伊勢町・同心小路
六九町・緑町・辰巳町・小柳町・大名町 |
1537 戸余 |
明治 23 ・ 2 ・ 7 |
天神小路・土居尻(飛火による) |
73 戸 |
明治 45 ・ 4 ・ 22 |
堂町・東町・出居番・片端町・和泉町・袋町・新町・田町・安原町・西町
同心町・口張町・旗町 |
1341 戸 |
|
(「東筑摩郡・塩尻市・松本市誌 現代上」より)
松本城三の丸以南に広がっていた町人地、東側に広がっていた町人地及び武家地、北側に広がっていた武家地をほぼ焼き尽くした。また三の丸内大名町より東側の武家地を焼失している。したがって、近世の建築物はそのほとんどが失われている。
○松本藩の廃仏毀釈により28寺中24寺が破却された。
明治3年から明治4年7月までに松本藩の廃仏毀釈により松本町の86%の寺院が破却された。
残ったのは真宗寺院の正行寺・極楽寺・長称寺・宝永寺の4か寺であった。これらの寺院はすべて明治期の大火で焼失している。
○松本の近代化による景観の変貌
下図は松本城の堀の埋め立て年代である。
現在の松本市と松本城
堀の埋め立て年次は「松本市史」による |
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明治9年から昭和7年にかけて総堀の大部分・外堀の半分ほどが埋められ宅地化された。
城下町の景観は昭和30年代の都市近代化事業により変貌していく。本町の近代化事業は昭和36年よりはじめられ、道路の拡幅、二階建てから九階建ての中高層ビルによる近代的な商店街つくりが昭和41年に完了した。
伊勢町は昭和40年3mの歩道拡幅工事に着手し41年には車道分離による歩道アーケードを設置した。中町は昭和62年、「中町くらのある町づくり」にとりくみ具体化された。しかし、この蔵群は明治21年の大火を教訓に建てられた明治の建築物である。
昭和60年「中央西地区市街地整備基本計画」により国府町・神明町・本町1〜3丁目・伊勢町1〜3丁目・新伊勢町・分銅町・巾上に及区画整理事業が開始され松本市街地は大きく変貌した。
A世界史的観点から資産の位置付けを行い普遍的価値を明確化する
松本城の世界史的位置付けを行い普遍的価値のある部分とそうでない部分を客観的に洗い出す ことである。もし際立って顕著な普遍性に欠ける場合、他資産とのリンクを検討する必 要がある。
B包括的保存計画の策定とその計画のもとに個別の文化財についての保存管理計画の策定
松本城には平成 11年策定の「松本城およびその周辺整備計画」がある。これにもとづき整備の推進を図るとともに、 包括的保存計画 と個別の文化財についての保存管理計画を策定しなければならない。
C既登録の文化財との統合又は再整理が可能であるかの検討
――― 姫路城・彦根城等との統合の可能性の検討 ―――
世界遺産委員会の文化遺産登録に関する傾向からすれば「既登録の文化遺産との統合又は再 整理は登録の有効手法」であ り、統合された資産に歴史的連続性をもたせれば、さらに価値を 増すことになる。
たとえば、「姫路城を中心とした近世日本の城郭群」のようにまとめた場合、日本の戦国時代の戦略的拠点としての城郭から泰平の世の権威の象徴としての白亜の城郭へ、また、山城から平城へそして平山城へと日本の城郭がたどった連続性がトータルとして収斂し、西欧の城郭に対して「日本の近世城郭」として顕著な普遍性が見えてくると思われる。
別表( P30)に掲げるのは我が国近世城郭の発達史区分である。
近世城郭は国宝城郭で天守が現存する4城は 「天正・文禄期」と「慶長後期(関ヶ原戦後)」に属しており姫路城はその最盛期の城郭である。日本の近世城郭の変遷史の上から姫路城に彦根城・松本城等を統合し「日本の城郭群」とした場合、世界的に見た城郭の唯一性がさらに明確になると思われる。
ウ 世界遺産に見る、拡大遺産の事例(統合・再整理・追加の事例)
世界遺産の中で当初の世界遺産の登録後拡大されて再登録された事例を以下に掲げる。
@フランス「ロワール渓谷」 ・・
1981 年単独登録された世界遺産「シャンボール城と領地」は 2000 年「シュリー = シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷」として再登録され、ロワール渓谷最大の城である「シャンボール城と領地」はその中に包含されることになった。
ロワール渓谷には 300 を越える古城が存在し、それらは中世の城砦やルネサンス期に作られた王城である。ルイ14世の頃からヴェルサイユ宮殿の存在により、ロワール渓谷の諸城の政治的重要性は失われますが、城の改修が継続され今日に残されている。
A「ベルギーとフランスの鐘楼群」 ・
ユネスコは 1999 年世界遺産に「フランドル地方とワロン地方の鐘楼群」として32の鐘楼を登録した。 2005 年にこれらにワロンのノール=パ・ド・カレー地域圏、ピカルディー地域圏の23の鐘楼を追加し「ベルギーとフランスの鐘楼群」と名称が変更された。これは国境を越えた統合の事例である。
B北京と 瀋 ( しん ) 陽 ( よう ) の 明 ( みん ) ・ 清 ( しん ) 王朝 ( おうちょう ) 皇宮 ( こうきゅう ) ・・・・・
1987 年北京の故宮博物院が世界遺産に登録された。故宮博物院は紫禁城で明と清の24代に渡る皇帝の宮城であった。これに、 2004 年、瀋陽の瀋陽故宮が追加登録された。瀋陽故宮は清の前身後金の皇帝ヌルハチとホンタイジの皇室並びに清王朝の離宮であった。追加と登録された世界遺産登録名は「北京と瀋陽の明・清王朝皇宮」である。
Cアラゴンのムデハル様式の建築物
1986 年テルエルの4つの建築物が「テルエルのムデハル様式の建築物」として世界遺産に登録 され (○サンタ・マリア大聖堂の塔・屋根ドーム○サン・ペドロ教会と塔○サン・マルティン教会と塔○エル・サルバドル教会の塔)
1990 年にサラゴエの住民がアラゴンには重要なムデハル様式の建築物が他にもあることに気づいた。 2001年、この世界遺産は改名され、6つの建築物が追加され、「アラゴンのムデハル様式の建築物」として拡張登録された。
Dオビエドとアスト ウリアス王国の建築物(スペイン) ・・
スペイン、オビエドおよびレナにある 9 世紀の 3 つの教会は 1985 年「アストウリアス王国の 教会 」として世界遺産に登録された。 1998 年3つの建造物が追加され「オドエビとアストウリアス王国の建築物」と改名され拡張登録された。
Eトランスヴァニア地方の要塞教会群のある集落(ルーマニア)
トランスシルバニア地方の要塞教会ビエルダン要塞教会が最初に世界遺産に登録され、その後 7つの要塞教会へと拡張登録され現在「トランンスシルバニア地方の要塞教会群のある集落」となっている。
Fグアラニーのイエズス会伝導所群(ブラジルとアルゼンチン)
1983年、ブラジルの「サン・ミゲル・ダス・ミソンイス遺跡群」が単独で登録された。翌年アルゼンチンの関連4施設が「グアラニーのイエズス会伝導施設群」 として新たに登録されるとともに、前年登録されていたブラジルの遺跡もここに含まれることになった。
ただし、現在ユネスコの世界遺産センターの扱いでは、事実上「サン・ミゲル・ダス・ミソンイス遺跡」を拡大したものとして扱われている。
以上のように「まとまりのある一定地域」において歴史的に価値ある遺産が追加登録されたり、再編成されている事例により「姫路城を中心とした日本の近世城郭群」という主題と資産構成は合理性をもっていると考えられる。
エ 登録基準「」の追加の可能性について
「姫路城を中心とした日本の近世城郭群」という主題の登録基準を考えた場合、の「ある期間を通じて、または、ある文化圏において建築、技術、記念碑的芸術、町並み計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。」も該当すると考えられる。
しかし、姫路城・彦根城・松本城等がそれぞれに建築様式が異なり、それを支える建築技術も多様である。織豊政権から関ヶ原の戦を経て徳川政権が強固になるに連れて城郭の性格が戦略的拠点から領国支配の中核としての天守に変化し、それにともない天守のデザインが堅固な下見板張りの黒を基調とした意匠から姫路城に代表される「優雅で外観のみごとな白亜の天守」が多数建築されるようになる。このように、政治の変革が天守のデザイン等に反映してくる歴史的事実を踏まえ「」の基準が追加されると考える。
姫路城も彦根城も松本城も世界遺産登録基準の「」と「」で申請しているが、「姫路城を中心とした日本の近世城郭群」としてまず国宝四城の合意形成ができた場合は登録基準「」が追加され、・・の3基準を満たす遺産群となる可能性がある。
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別添図 明治期における松本の大火被害
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別表 近世城郭の発達史
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参考文献
「織豊系城郭の形成」 千田嘉博 東京大学出版会
「岩波講座 日本通史 近世1
・十六世紀後半の日本 朝尾直弘
・都市の計画と建設 玉井哲雄
「建築の歴史」 玉井恵介・玉井哲雄 中央公論新社
「戦国の城」 小和田哲雄 学習研究社
「江戸時代の設計者 異能の武将藤堂高虎」 藤田達生 講談社
「城造りのすべて」 三浦正幸 学習研究社
「天守のすべて@」 よみがえる日本の城 25 学習研究社
「日本の城の基礎知識」 井上宗和 雄山閣
「復元体系 日本の城9 城郭の歴史と構成」 ぎょうせい
「復元体系 日本の城3 北信越」 ぎょうせい
「復元体系 日本の城5 近畿 」 ぎょうせい
「復元体系 日本の城6 中国 」 ぎょうせい
「国宝松本城」 松本市教育委員会
「国宝松本城 解体・調査編」 松本市教育委員会
「松本市史下」昭和8年刊 松本市
「東筑摩郡・塩尻市・松本市誌 歴史下」 東筑摩郡・塩尻市・松本市誌刊行会
「東筑摩郡・塩尻市・松本市誌 現代上」 東筑摩郡・塩尻市・松本市誌刊行会
「松本市史 近世」 松本市
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